負けるな人類:英語学習はAIに淘汰されるか

ピョンチャン冬季五輪も終わり、いよいよ次は東京五輪ですね。夏季五輪の招致合戦が繰り広げられていた時、気になる報道を見ました。東京をアピールするビデオによると、東京五輪はハイテク五輪になり、外国人との会話は翻訳機により瞬時に翻訳されると。
このビデオを見た時、「あーぁ、やっちゃった」と思いました。

夢の自動翻訳

私が初めて自動翻訳を使ったのは20年以上前。自分が海外に行くなど考えていなかった頃のことでした。それから20年近く、音声認識も自動翻訳も顕著な進歩は見られませんでした。招致ビデオで紹介したような夢の技術を実現するにはAIでも使わないとムリでしょ、と思っていました。AIはArtificial Intelligence、即ち人工知能ですね。

最近の報道によると、実際政府は東京五輪に向けて官民共同で行うAIによる自動翻訳の開発を後押ししているとのことです。これには期待してしまいますね。

しかし、AIによる実用的な自動翻訳が実現したら、日本人はもう英語を学習する必要がなくなるのでしょうか?

AIだから出来ること、AIには出来ないことを私なりに考察して、私たちがするべきことを考えてみました。

AIによる自動翻訳に期待すること

AIを使用しない自動翻訳が行うことは基本的に字義通りの日英変換・英日変換ですね。しかし実際の会話ではいろいろな方法でコトバに字義以上の意味を持たせることができます。AIを使えばこのような含蓄も翻訳してくれるようになるのでしょうか?

簡単な例を挙げてみましょう。あるTV番組で、来日したハリウッド女優がインタビューに答えていました。映画の中で自分が演じた女性のことをどう思うか訊ねられた彼女はこう答えました。

She is a girl.

これを字義通りに訳すと

彼女は少女です。

ですね。従来の自動翻訳ならきっとこのように訳すでしょう。ただ、こんな訳では「だから?」と言わざるを得ません。しかしこの時、「She is」と「a girl」の間には「間」がありました。ここに一瞬「ため」を入れるだけで意味は大きく変わります。その部分の字幕にはこうありました。

彼女は女の子の中の女の子だわ。

これは人による訳だと思われますが、AIによる自動翻訳もこれくらいしてくれないと実用性は低いですね。

AIによる自動翻訳でも期待できないこと

では、上記のような訳が自動翻訳で可能になれば、英語学習は不要になりますか?私は以下の理由で英語学習がAIに淘汰されることはないと考えています。

英語的な発想

私は日本語を話す時と英語を話す時では思考回路を少し変えます。カナダに住んでいた時、私はカナダ人と日本人の間で通訳することがありましたが、英語的な発想が理解できない日本人の言うことを訳す時に苦労することがありました。

例えば、カナダ人が質問する時、彼らは答えを求めます。しかし日本人は答えより大事だと思うことがあるとそれを説明します (例えば、その質問の答えが分からない時、カナダ人が求める答は「分からない」ですが、その職場の日本人は、その質問に答えることの難しさを延々と説明する傾向がありました)。これをそのまま訳すと会話になりません。実際そのような場面に何度か遭遇しました。

このような場面で通訳に求められることは時に、コトバの字義通りの変換よりも文化の違いを埋めることにあることがあります。AIによる翻訳が発達しても、このような発想の違いを埋めることはできるでしょうか。

コトバ遊びや語呂

これは経験豊富な翻訳者や通訳者でも苦労するでしょう。

英語で書かれた本の日本語訳をまず読んで、その後で原文を読んだ時に「あぁ、そうだったのか」と思ったことがありました。その本の中に、父親が幼い息子に庭の掃除を教える場面があります。父親は繰り返しこう言います。

緑で清潔

そしてこの言葉を幼い息子に覚えさせます。その時は「ふーん」と思って読んでいましたが、原文にはこうありました。

Green and clean

この語呂なら幼い子供でも覚えられそうですね。しかし翻訳で語呂を伝えるのは至難の業です。これはAIによる通訳が発達しても難しいのではないでしょうか。

人類がAIに負けないために

今までに何度か、ListeningでもReadingでも英語を英語のまま理解するということの必要性を説いてきました。これが出来るようになると、SpeakingでもWritingでも頭に浮かんだことを英語で自分のコトバとして言ったり書いたり出来るようになります。

一度日本語になった言葉を英語に変換すると、自分で訳しても自分のコトバにならないことがあります。このウェブサイトのホームに書いたとおり、ここで目指しているのは外国人と腹を割って話すことができる英語力です。そのためには自分の思いを自分のコトバで伝えることが必要だと考えています。これはAIに頼らずに自分で学習することではないでしょうか。

報道によると、AIの進化はディープラーニングにより可能になったそうですね。人工知能は文字通り人工的な知能。つまり、このディープラーニングは本来人間が行うことで、それを機械にさせたのが人工知能です。

私は、英語の上達は人間が本来行うディープラーニングにより可能になるのではないかと考えています。次回はこのことをお話しましょう。

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