プーさんから学ぶ

前回は少し寄り道しましたが、今回こそは前々回予告した通りにくまのプーさんの原文、Winnie-the-Poohの中から面白い表現をいくつか紹介します。以前のように長い一文を読み解くようなことはせず、短い文章をいくつか取り上げてそこから学べることを考察します。

英語で合いの手上級編

以前「シャイな人の英会話上達法:英語で合いの手上級編」で相手が言ったことに2単語で聞き返す合いの手の入れ方を紹介しました。これはプーさんもしています。次に引用するのは、おバカなことをしたプーさんとクリストファー・ロビンの会話です。

“I have been Foolish and Deluded,” he said, “and I am a Bear of No Brain at All.”
“You’re the Best Bear in All the World,” said Christopher Robbin soothingly.
“Am I?” said Pooh hopefully.

 自分は馬鹿で能無しなクマだと自虐的なことを言うプーさんに、クリストファー・ロビンは「You are the Best Bear」となだめるように言います。これに対してプーさんは「Am I (the best bear)?」と聞き返します。「英語で合いの手上級編」でも述べたとおり、ここで「Really?」と聞き返すと会話が陳腐になってしまいます。

Winter day
One fine winter’s day when Piglet was brushing away the snow in front of his house, he happened to look up, and there was Winnie-the-Pooh. (写真はイメージです)

ここではコトバのリズムにも注目したいです。「said Christopher Robbin soothingly」と「said Pooh hopefully」が対になってコトバがリズムのように流れます。ここは原文のリズムを感じたいところです。

良い朝

次に引用するのは憂鬱そうなロバのイーヨーとプーさんの会話です。

“Good morning, Eeyore,” said Pooh.
“Good morning, Pooh Bear,” said Eeyore gloomily. “If it is a good morning,” he said.

「Good morning」は一般的に「おはようございます」と解釈されていますね。プーさんとイーヨーがお互いに「Good morning」と言うのは、このように「おはようございます」と解釈して構いません。しかしイーヨーはこの「good morning」を文字通り「良い朝」という意味で使い、「If it is a good morning(良い朝であれば)」と続けます。ここも原文ならではのコトバ遊びを楽しみたいところです。

Good Morning - 良い朝
良い朝とはどんな朝でしょうか。写真は雪で到着が遅れているバスを待ちながら見上げた早朝の空(本文とは関係ありません)。

いい機会なので「morning」という面白い単語について少し説明します。これを一日の中の時間帯の意味で使う場合は「in the morning」というコトバのカタマリで使われます。しかし上記の会話のように、ある日のある朝という意味で使われる場合は可算名詞として「a good morning」となります。この「morning」という単語については、また機会があればもう少し詳しくお話します。

関係代名詞

この見出しを見ただけで嫌な気持ちになる人もいるかもしれません。この関係代名詞は受験英語では厄介な嫌われ者かもしれませんが、活きた英語ではいろいろ役に立ちます。上記の会話で、イーヨーは次のように続けます。

“If it is a good morning,” he said. “Which I doubt,” said he.

この「which」は関係代名詞として使われています。一文の後に「which is…」や「which I think is…」などを続けることで補足的な内容を付け足す表現として使われます。上記の文を敢えて一文で表すと

If this is a good morning, which I doubt.

となり、「良い朝であれば、けどそうは思わない」くらいの意味になります。野暮なことを承知でこの一文を関係代名詞なしで書くと

I doubt that this is a good morning.

となります。つまり「これが良い朝であることを疑う」といった意味になります。しかしこれでは、意味は伝わってもイーヨーの憂鬱な雰囲気が伝わりませんね。もちろん受験英語であれば何の問題もありませんが、活きた英語では様々な口語表現を使って雰囲気を表すことも大事です。

作品を原文で読むということ

最近の報道によると、作家の川端康成さんが50年前にノーベル文学賞を受賞した際の選考過程が明らかになったそうです。ある日本の文学者は川端さんの文体と心理描写の優れた点を挙げて、それを誰が翻訳できるだろうかと述べたとのことです。一方で、日本人以外の選考委員からはそれが分からないとのコメントもあったそうですが、最終的にノーベル文学賞を受賞したということは、きっと原文の素晴らしさを伝え得る訳本が出版されたのではないかと推察します。

伊豆神社
川端康成さんがノーベル文学賞を受賞した1968年には「伊豆の踊子」のドイツ語訳が出版されていたそうです(写真は伊豆神社から見た相模湾。本文とは関係ありません)。

文学作品の原文の描写や文体は、それを母国語とする人以外には伝わらないこともあるということがお分かりいただけるでしょうか。受験英語的に意味だけを伝える「和訳」は論外ですが、才能がある翻訳者の方が手がけた翻訳でさえも伝えきれないことがあり得ることを考えると、作品を原文で読むことには大きな意味があると考えます。もちろん、簡単ではありませんが。

次回はこの点も踏まえ、引き続きくまのプーさんの原文から面白い表現をいくつか紹介します。

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