プーさんに学ぶ会話術

前回に引き続きくまのプーさんの原文、Winnie-the-Poohから面白い表現をいくつか紹介します。子供向けの文学作品ですので独特の言い回しや言葉遊びが多用される一方、登場人物たちの会話には私達が普段の生活でも使える英会話表現を見つけることもできます。

コトバのキャッチボール

このブログでは折に触れ「英語を英語のまま理解する」ことを述べてきました。例えば、「It depends.」と、日本語でも使われる「case by case」はどちらも日本語にしてしまうと「場合による」といった意味になります。しかし、「depends on 〇〇」は「〇〇による」という意味ですので、「It depends.」はその後に何かが続くことを暗示している点で「case by case」と異なります。日本語に変換して理解してしまうとこの差が見えなくなってしまうので、ここは英語のまま理解したいところです。

以下はプーさんとクリストファー・ロビンの会話です。

“…Sometimes it’s a Boat, and sometimes it’s more of an Accident. It all depends.”
“Depends on what?”
“On whether I’m on the top of it or underneath it.”

それは、ある時はボートで、ある時は事故のようなもの、と言うプーさんにクリストファー・ロビンが聞き返します。その問いに対するプーさんの答は、それは自分が上になるか下になるかによる、ということです。ちなみにプーさんが「ボート」と呼ぶものは大きな瓶で、プーさんは水に浮いた瓶の上に乗るために苦労します。

この二人の会話は、次の一文を3つに区切ったものと考えることができます。

It all depends on whether I’m on top of it or underneath it.

「It (all) depends.」という含みを持った言い方に対して「Depends on what?」と聞き返すのはよくある会話のパターンで、コトバのキャッチボールとも言えます。しかしここで「It depends.」を「場合による」という日本語に変換して理解して、それに対する問いを日本語で考え、それを英訳して言うのであれば「Depends on what?」という問いが対になって出てくることはないでしょう。

Learn from Pooh Bear
“Oh! Well, where is it?”
“There!” said Pooh, pointing proudly to The Floating Bear.
It wasn’t what Christopher Robin expected…
(写真は本文とは関係ありません)

英語で自然なコトバのキャッチボールをするためには、少しずつでも英語を英語のまま理解することが必要になります。

Paraphrasing

ある言葉を別の言葉で言い換える「Paraphrase」は英会話でよく使われます。以前「聞くは一時も恥にあらず:間違えは英語学習のチャンス」で、英語で何て言うか分からないことがあったら別の言葉で言い換えて、それを何て言うのか聞いてみるという話をしました。また、自分が言ったことを相手が理解しない時、分かりやすい別の言葉で言い換えるのもParaphrasingです。

例えばプーさんとクリストファー・ロビンの間でこんな会話があります。

“…You’d better tell the others to get ready, while I see if my gun’s all right. And we must all bring Provisions.”
“Bring what?”
“Things to eat.”
“Oh!” said Pooh happily.

Provisionsには「食料(などの供給)」といった意味がありますが、プーさんはその言葉が理解できません。そこでクリストファー・ロビンは「Things to eat(食べるもの)」と言い換えます。それを聞いたプーさんは喜びますが、「Provisions」という言葉はあまり嬉しそうに聞こえなかったようですね。

Learn from Pooh Bear
“What do we do next?”
“We are all going on an Expedition,” said Christopher Robbin, as he got up and brushed himself. “Thank you, Pooh.”
“Going on an Expotition?” said Pooh eagerly.
(写真は本文と関係ありません)

そんなクリストファー・ロビンも分からない言葉を言い換えてもらうことがあります。これはクリストファー・ロビンとオウルの会話です。

“The atmospheric conditions have been very unfavourable lately,” said Owl.
“The what?”
“It has been raining,” explained Owl.
“Yes,” said Christopher Robin. “It has.”

Atmospheric conditionsは大気の状態、unfavourableは好ましくないといった意味ですが、クリストファー・ロビンはこれが何の意味か分かりません。そこでオウルは「It has been raining(ずっと雨が降っている)」と言い換えます。

私は今までに、外国人と会話をしていて自分が言いたい言葉を英語で何と言うか分からない時にその場で和英辞書を引く人を何人も見てきました。これは、せっかく会話から学べるチャンスを自ら失くしてしまう、非常にもったいない行為です。「聞くは一時も恥にあらず」でお話したように、分からない言葉があったらそれを自分が知っている他の言葉で言い換えて、それを何と言うか聞いてみましょう。そこで必要なのは語彙力ではなく「発想の転換」です。

Learn from Pooh Bear
“The flood-level has reached an unprecedented height.”
“The who?”
“There’s a lot of water about,” explained Owl.
(写真はイメージです)

余談ですが、Winnie-the-Poohの作者のA. A. Milneさんは「イギリス人」です(なぜ括弧でくくったか、「英語は誰の言葉?」を参照してください)。UnfavourableはBritish Englishで、これがAmerican Englishでは「u」が抜けてUnfavorableになります。

原文から学ぶ英語

ここまで1回の寄り道を挟んで4回に渡ってWinnie-the-Poohを教材にして英語表現について考察してきました。英文学を原文のまま読破することは難しいとしても、原文を英語のまま理解することがどんなことか、少しでも垣間見ていただくことができたでしょうか。

次回は、ちょっと「今更感」はありますがOxford Dictionariesが選んだWord of the Year 2018を紹介して私なりに考察してみます。

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