英語にならない日本語と、日本語にならない英語

受験英語では、日本語を英訳したものが英語で、英語を和訳したものが日本語と習いましたが、言語はそんな単純なものではありません。英語でしか言えないことも日本語でしか言えないこともたくさんあります。今回はいくつかの単語を紹介して、日本語にならない英単語と英語にならない日本語の単語について英語学習者の視点から考えます。

2004年にノーベル平和賞を受賞したWangari Maathaiさんは、その著書で環境保護の概念を表す言葉として「Mottainai」を提唱したことで話題になりました。地球環境へ対する尊敬の念がこの一言に表されることに感銘を受けたとのことです。つまり、これほど多くの意味を一言で表す単語は他の言語にはないということです。このように英語と日本語で相互変換できない表現は多々ありますが、今回はそれを単語レベルで考えます。

英語にならない日本語

上述の「もったいない」のように英語では一言で表せない日本語の単語をいくつか挙げていきます。受験英語的に直訳することは意味がないと分かっていただけるでしょうか。

なつかしい

英語を習い始めて以来、この気持ちを一言で言えずにもどかしい思いをしたことが何度かあります。
これはカナダに住んでいた時の体験談です。同世代で少し日本語を話せるカナダ人の友達と一緒にいる時にラジオから80年代の曲が流れてきて、二人とも「なつかしい」と言いました。そこで私は、今の気持ちを英語で何て言うか尋ねると、彼女は困った挙句に「言えない」と答えました。しいて言えば「It brings me back to the old days.」とのことですが、これでは長いですし、日本語の「なつかしい」ほど多用される表現ではありません。

80年代の曲を聴いて同じ気持ちを共有したのですから、英語文化に「なつかしい」という感情がないということではありません。しかしこの感情を一言で表すのは日本独自の文化かもしれません。

英語にならない日本語と、日本語にならない英語
同じ場面に遭遇して同じ感情を抱いても、この表現は文化によって異なる。

仕方ない(しょうがない)

これを和英辞典でひくと「It cannot be helped」と出てきますが、英語のネイティブスピーカーとの会話でこの表現を聞いたことはありません。むしろ、日本人の知り合いが多い一部の英語話者の間では日本人だけが使う表現として知られています。

印象的だったのは報道番組で沖縄の米軍基地問題について報じていた時のことです。米軍基地に勤務するアメリカ人が基地の移転問題について取材に答えていました。彼は訓練の必要性と重要性について英語で力説して、移転が不可避である理由を述べた最後に「シカタナイ」と言いました。無論、この問題は沖縄県民をはじめとする日本人にとって「仕方ない」で済ませられる問題ではありません。しかし日本語を知っている彼にとって、この言葉は英語で説明しきれない多くのことを一言で述べる都合の良い単語だったのかもしれません。

日本語にならない英語

英語にももちろん、日本語では一言で言えないような表現もあります。このような表現を理解するためには和訳は役に立たず、なんかそんな感じの意味の英語として英語のまま理解するのがいいでしょう。

Right

この「Right」という単語には非常に多くの意味があり、使いこなせれば便利な言葉です。例えば2000年に公開されたTom Hanksさん主演の映画「Cast Away」で物語を象徴するのがこの台詞です。

I’ll be right back.

ここで「I’ll be back.」と言えば「(俺は)戻る。」という意味です。しかし「I’ll be right back.」を「すぐに戻る。」とか「必ず戻る。」などと訳しても、「Right = すぐに」とか「Right = 必ず」と解釈できるわけではありません。この「Right」は和訳せず、強調する、くらいの便利な英単語として理解しておくのがいいでしょう。

英語にならない日本語と、日本語にならない英語
「It’s right there」と言った時の「right」もムリに訳そうとせずに、何かを強調した、くらいに解釈すればいいだろう。

One

この「One」という単語も「1」以外の様々な意味で使われ、「いくつかある同じものの一つ」という意味で日常会話でも多用されます。例えば40代以上の人にとっては懐かしいTV番組「The X-Files(X-ファイル)」では、連続殺人事件の被害者の背中に次の文言が書かれるエピソードがあります。

He is one

字幕は「彼が証拠だ」となっていますが、上記のRightと同様に「One = 証拠」と解釈するのは野暮です。この「One」は何人かの連続殺人事件の被害者のうちの一人という意味で、猟奇的な犯人にとっては自分の手柄の一つであることを示す端的で便利な表現ということになります。これも「彼が証拠だ」という訳文に頼らずに、なんとなくそんな意味の英語表現として理解するのがいいでしょう。

余談ですがThe X-Filesを象徴するものの一つに、オープニングの最後に表示される以下の一文があります。

THE TRUTH IS OUT THERE

この「Out」も上述のRightと同様に、Thereを強調する単語として和訳せずに解釈するのがいいでしょう。仮に「there」を「そこ」、「out there」を「すぐそこ」と訳しても「out = すぐ」と解釈するのは野暮です。

Because

「Because」は「なぜならば」でしょ、と思った人いませんか?ならば聞きますが、「なぜならば」という表現を今までの人生の中で何回使ったことがありますか?おそらくほとんどないでしょう。強いて言えば文末につける「~だから」がそれに相当しますが、実際の使われ方を考えると日本語に直訳できない表現として理解する方が自然でしょう。例えば「Why」で始まる質問をされた時にすぐに答が出ずに次のような表現で言葉が止まることがあります。

Because…

あえて訳すとすれば「えっと・・・」とか「それは・・・」などとなります。同じ場面で「なぜならば・・・」と言う日本人はほとんどいないでしょう。

英語にならない日本語と、日本語にならない英語
生活の中で「Why?」と聞きたくなる場面は多々ある。ここで「Because」と答えるためには英語脳が必要になる。

実はこの「Because」を使えるか否かで、日本人英語学習者の英語の理解度が分かることがあります。

思ったことを英語で表現する

「Why」で聞かれたら「Because」で答えるということは中学校で習うことで、それを理解することは難しくないでしょう。しかしこれを会話で使える日本人英語学習者は多くありません。なぜならば、この「Because」に相当する日本語がないからです。

英会話を習い始めて何かを話す時、まずは思いついたことを日本語にして、それを頭の中で英訳して口に出すことになるでしょう。ですから「Why」で質問されてその答えを頭の中で考えて英訳していってもBecauseに相当する「~だから」は文末に来るので、終始「Because」が口から出ないまま終わってしまいます。つまり「Because」で答えられないことは英語を英語として話せていないことの目安にもなります。

もちろんこれは悪いことではありません。英語学習者であれば誰もが通過する段階です。英会話を習い始めると、頭の中で英訳・和訳するスピードが上がると「上達した」と感じることでしょう。私もそうでした。しかし、上述のように英語と日本語は相互変換できないことが分かると、英語を英語のまま理解することが次の段階だと理解できるでしょう。そうすると「Why」と聞かれたら自然に「Because」が口から出てくるようになります。

このブログでは折に触れ英語を英語のまま理解することについて述べていますが、次回はそのために何をするべきか少し具体的に考えてみます。

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