和訳と英日翻訳:異文化を習うということ

前回は英文の多読の「教材」の選び方を説明し、一例としてCNNの英文ニュースサイトの記事を多読する方法を紹介しました。今回はその時に引用した記事の英文・和文を比べて、英文と和文の違いと英日翻訳について考察します。タイトルにもありますように私は、受験英語のように文法のルールに従って一字一句変換する「和訳」と、原文を異文化に当てはめて書き直す「英日翻訳」は別物と考えています。

前回引用させていただいたCNNの英文の記事はこちらです。

Laser mapping uncovers dozens of ancient Mayan cities
https://edition.cnn.com/style/article/ancient-mayan-structures-discovered/index.html

そしてその日本語サイトの記事がこちらです。

密林に浮かび上がるマヤ文明の遺跡 レーザー技術で発見
https://www.cnn.co.jp/style/architecture/35115470.html

前者が原文で、後者がその「英日翻訳」であると推察されます。この二つの記事を見比べて見えてくるものを私なりに考察してみました。

日本語と英語は本質的に違う

以前「流暢な受験英語からの卒業」で紹介しましたように、英語と日本語は異なる文化で発達した本質的に異なる言語です。その違いを挙げていったらキリが無いのですが、この二つの記事から見えてくることを少し説明します。ひとつ理解していただきたいのは、これは異文化を比べてどちらが良いとか悪いとか言う問題ではなく、「違う」という話です。

主語の選び方

この記事の最初の一文を読んだだけでも「英日翻訳」が英文を一字一句変換したものである必要が無いことが分かるでしょう。英文記事はこのように始まっています。

Advanced laser mapping has revealed more than 60,000 ancient Mayan structures beneath the jungles of northern Guatemala. [Cable News Network, 2018a]

一方、和文記事はこのように始まります。

グアテマラ北部のジャングルの下に隠れていた6万以上の古代マヤ文明の建造物が新しいレーザー技術によって発見された。 [Cable News Network, 2018b]

同じ意味の文章でも英文の主語が「Advanced laser mapping」つまり新しいレーザー技術であるのに対し、和文の主語は「古代マヤ文明の建造物」です。和文で「新しいレーザー技術」をそのまま主語にしてしまうと「新しいレーザー技術が古代マヤ文明の建造物を発見した」という不自然な表現になってしまいます。何が自然な表現か、それは英文と和文で異なります。

では、自分で英文を書く時に、それを自然な英語にするためには何を主語に選べば良いか。難しいですね。主語の選び方は文体によっても変わります。それを理解するためにも、私は多読を勧めます。多読を続けると、何を主語に選べば良いか、なんとなく分かってきます。

「個」重視か、「団体」重視か

次はもっと文化的な話です。日本人が自己紹介する時、または人を紹介するとき、自然と所属・役職/肩書き・名前の順に紹介するでしょう。ほぼ無意識にそうしていると思いますが、そこには日本は「個」よりも所属する「団体」を重視する文化であることが背景にあると考えられます。例えば今回紹介する英文記事にはこうあります。

according to one of the study’s co-directors, Marcello Canuto from Tulane University in New Orleans [Cable News Network, 2018a]

ここに相当する和文はこうなります。

この調査の共同ディレクターの1人、米テュレーン大学のマルチェロ・カヌート氏だ [Cable News Network, 2018b]

文脈上、英文でもその役割である「study’s co-director」が先に来ますが、その後は「名前 – 所属」の順になり、日本語と逆です。英語で自己紹介する機会があればこの点に注意する必要があります。

旅人
以前バイクで旅行していた時、旅先で知り合った人に「何をしていらっしゃるんですか」と聞かれた。職業のことを聞かれたのは分かっていたが「旅の者です」と答えた。どこの誰でもない「ただの自分」でいたかったから。

受験英語で習ったことが実際どう使われているか

私は折に触れ受験英語を酷評しますが(自分では「酷評」ではなく「実態の客観的説明」だと思っていますが)、その全てを否定するわけではありません。受験英語で習って実際に使われることも多々あります。例を見てみます。

Not only A but also B

これは学校で習う構文の中でもよく目にするもののひとつでしょう。実際にこの構文は様々な形で使われ、今回の英文記事ではこのように使われています。

This research shows that, not only were there lots of people, but also lots of ways that they modified the landscape to render it more productive. [Cable News Network, 2018a]

この一文は和文記事ではこうなります。

今回の調査で、この地域に多くの人々が住んでいただけでなく、彼らは地形の生産性を向上させるためにさまざまな方法で地形に修正を加えたことが分かる。 [Cable News Network, 2018b]

文法的なことを少し説明しますと、「only」の後に続く文章では「倒置」が起こる、つまり主語と動詞が逆になります。平文であれば「there were」になるところが「were there」になります。余談ですが、実はこのことは随分前に「Listening & Reading:「似て非なる」ものの共通項」で少し触れていて、その時も多読の効能について説明していました。

関係代名詞

これに苦しめられた人は多いのではないでしょうか。上記の一文の最後の部分は関係代名詞を使っていて、「that」がそれです。

lots of ways that they modified the landscape to render it more productive [Cable News Network, 2018a]

これを受験英語的に和訳すると「彼らが地形をより生産的にさせるための多くの方法があった」となるかもしれませんが、和文記事では上記のように自然な表現になっています。関係代名詞は実際に英語の書き言葉でも話し言葉でも多用されますが、英日翻訳する時は必ずしも受験英語的にゴリゴリと字義通りに変換する必要はありません。

関係代名詞は受験英語の影響で苦手意識がある人もいるかもしれませんが、実際によく使われますので、使い方に慣れれば書き言葉でも話し言葉でもいろんなことを「それっぽい」英語で表現することができるようになります。では、どうすれば慣れるか。ここでも私がお勧めするのは多読です。騙されたと思って試して続けてみてください。

翻訳者に敬意を

ここまでの説明でお腹がいっぱいになってしまいましたか?ごめんなさい。次回はもう少し理屈っぽくないお話にしてみます。

最後に、今回紹介したCNNの英文記事を英日翻訳された翻訳者の方に敬意を表したいと思います。英文記事を自然な形で和文にしてくださるお陰で、私たちは多くのことを学ぶことができます。

Cable News Network. (2018年9月11日a). Laser mapping uncovers dozens of ancient Mayan cities. 参照先: CNN International: https://edition.cnn.com/style/article/ancient-mayan-structures-discovered/index.html
Cable News Network. (2018年9月11日b). 密林に浮かび上がるマヤ文明の遺跡 レーザー技術で発見. 参照先: CNN.co.jp: https://www.cnn.co.jp/style/architecture/35115470.html
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