前々回はカナダ出張の経験を踏まえて英会話の上達段階について考察し、続いて前回はその前半段階で何をするべきか考え、発想の転換の話をしました。今回は英会話上達の後半段階、即ち受験英語で会話をする人が何を目指すべきか考えていきます。
英会話の上達段階で少しお話しましたが、自然な英語と流暢な受験英語は似て非なるものです。
流暢な受験英語とは
学校で習う英語は和訳・英訳ベースで、日本語を文法のルールに従って変換したものが英語として教えられています。受験英語の英訳と和訳は暗号化と複合化といってもいいでしょう。
しかし、英語と日本語は異なる文化で発達した本質的に異なる言語ですので、日本語を一字一句変換しても英語にはなりません。それをいくら流暢に話しても、流暢な受験英語は自然な英語にはなれません。コウモリは空を飛ぶ哺乳類であって鳥ではないのと似ている、と言ったら少し伝わるでしょうか。
流暢な受験英語は到達点になり得るか
では、流暢な受験英語を身につけると何ができるでしょうか。実際は、いろんなことができます。国際的に大きな仕事をするビジネスマンや国際機関で働く職員にも受験英語で話をする人はたくさんいて、いろんなことを達成しているようです。受験英語でもいろんなことを伝えることができます。
では、帰国子女でもなければ自然な英語を話せるようにならないと考え、受験英語を上達させることを目標とすればいいのでしょうか。それは限界ですか?
今までにも何度か話しましたが、自分のレベルに満足することは上達の終焉です。
自然な英語でできること
目標を低く設定する前に、その上にある自然な英語を話せるようになるとどんなことができるのか、私の経験も踏まえて考察します。
より正確に伝える
上述のように英語と日本語のコミュニケーションは本質的に異なり、日本語を文字通り「英訳」してもその趣旨が伝わるとは限りません。
さらに、前々回に少し述べましたが、受験英語で会話する人は和製英語を使う傾向があるように見受けられます。和製英語について詳しくは「和製英語:Japanglishの世界へようこそ」を読んでみてください。和製英語を使っていては伝えたいことを正しく伝えることができません。
今までに何度か「習って慣れろ」というお話をしました。誤った情報として習ってしまった和製英語は正しく習って直す必要があるので、「習うより慣れろ」で英語を習得しようと考えている人は、少し考え直した方がいいかもしれません。

グチャグチャ英語に慣れる
これも前々回述べましたが、受験英語で会話する人はグチャグチャ英語、つまり単語と単語が繋がって違う音に聞こえる英語に慣れない傾向があるようです。グチャグチャ英語なんか話せるようにならなくてもいい、と考えている人もいるかもしれませんが、これには2つの利点があります。今までにも何度か書きましたが、自分で発音できない音は聞き取れないので、グチャグチャ英語を聞き取るために必要なのは、実はグチャグチャ英語を話せるようになることです。そしてグチャグチャ英語は「省エネ」的な話し方ですので、これができるようになると単語を一つひとつ発音するよりも楽に話せるようになります。
自分のコトバで人柄を伝える
実例を紹介しましょう。以前カナダの大学院に通っていた時によく会っていた仲間に、その仲間の一人が連れてきた日本人語学留学生の女性がいました。以前「『海外に住めば英語が話せるようになる』のワナ」でお話したように語学留学をしても自然な英語を話せるようになるわけではなく、その女性も受験英語で会話をしていました。ある日、仲間の一人のカナダ人と二人で話している時にその日本人女性の話になり、彼女は「私、あの人のことよく知らない」と言いました。その気持ちは分かります。その日本人は一所懸命に英語を話して、「事実」は伝わるのですが、その言葉から彼女の人柄を見ることはできませんでした。
カナダの日系企業で働いていた時も、受験英語で会話をする人で「熱心に仕事をする」などと評判の駐在員の方もいました。そういった仕事ぶりは態度から伝わります。しかし正直なところ、その人と日本語で会話する時に感じられる人柄を、英語の会話で感じることはあまりありませんでした。
想いや気持ちを伝えるのは暗号ではなく自分のコトバです。
最後にもう一つ、今回のカナダ出張で気付いたことをお話します。言葉でも態度でもない、表情についてです。
笑顔はどこまで通用するか
外国人と話をする時にやたら笑顔になる人を時々見ます。それは照れ隠しでしょうか、無意識でしょうか、それとも笑ってごまかそうとしているのでしょうか。それは造り笑顔とは違うようですが、楽しい話題でもないのに満面の笑みを浮かべられると違和感を覚えることもあります。中には日本人と仕事の話をする時は大抵しかめっ面なのに、カナダ人と話す時にはいつも満面の笑みになる人もいます。このような態度は二面性として捉えられないでしょうか。
もちろん笑顔を否定する気はありません。自然な笑顔は周りの人達を笑顔にします。しかし、不自然な笑顔には魅力を感じません。笑顔で困難を乗り越える、という人もいるでしょう。しかし、たとえ上手でなくても自分のコトバで想いを伝えることができれば、ムリに笑う必要もないのではないでしょうか。笑顔より大事なのは、自信を持って自分のコトバで話すことではないでしょうか。そして、自分に自信を持てれば自然な笑顔を見せられるのではないでしょうか。

さて、カナダ出張前の予告から随分寄り道してしまいましたが、次回こそ予告通り英文Readingについて、翻訳のことも交えながらお話しましょう。